好きにできる時間は減ったけれど、自分らしくいられる時間が増えた気がするこの頃。

年の暮れも近く、慌ただしい時間の中で、自分のペースを保つことは、今の私にはまだむつかしい。

 

今日はふと、思い出したことがある。

中学1年生のときのことだ。

合唱部に所属していたわたしは、たまたま帰らなくてはいけない用事があって、帰り支度を済ませていた。教室にはまだ数人の生徒が残っていて、お喋りしていたりふざけあったりしていた。

その中でぽつんと、テニス部の女の子が椅子に座っていた。私はその子とそこまで親しい仲ではなかったけれど、たまにお兄さんのことでからかわれて泣いていたことは知っていた。

その子のお兄さんは所謂オカマで、この辺りの田舎では珍しい性同一性障害とされるものを抱えながら生きていたひとだった。

からかわれることが辛いのであろうその子は、たまに学校をぽつぽつと休んでは、放課後やお昼の時間に、他の子の目を避けるように奥にある教室でプリント学習をしていたこともあった。

その子はきっと部活でもからかわれているのだろうな、大丈夫かな、部活行くのかなと、思いながら背中を見つめていたことだけは鮮明に覚えている。

声をかけてみようと思ったときに、同じ学年のテニス部の女の子たちが教室に数人で押し掛けて、その女の子めがけてグサグサと言葉を投げつけた。

みんなは頑張って部活してるのになんでお前だけは来ないんだ。

どうせ家に帰ってもオカマがいるんだろう、部活してるほうがよっぽど楽だ。

ラケットは持ってきているのに部活に来ないってことは、一応部活する気で学校には来るのか。そういうアピールはいらないからはやく来い。

なんでかな、部活抜け出してまで言いに来るようなことなのかなと思っていたら、その子が肩をぐっと掴まれて、引きずられそうになっていた。

今でもどうしてかはわからない。

私はその数人の女の子たちに、今日は体の具合が悪くなっちゃったから、その子は部活を休むんだって!みんな部活抜け出してきてると、先輩に怒られちゃうんだから、はやく戻ったほうがいいよ!と言っていた。

学年でもお友達の多かった私が、ひっそりと息を潜めていた子を庇うとは思わなかったであろう女の子たちは、そうなんだ、次はないと思うから、などと言って教室から出て行った。

そのあとは、なんで?どうして?と、その女の子は泣きながら私に抱きついてきた。

私はそのとき、どう言い返せばいいかもわからなかったけど、今日はもう大丈夫なんだよ、と声をかけた。

その日その子は、私のことをはるかちゃんは怖くないの?と聞かれたことも覚えている。

でも、なにが怖いのかわからなかった。私は、なんにも怖くないし、なにが怖いのかわからないよ、と返した。

 

いま、その子は元気だろうか。

お兄さんは自分のことを愛せるようになったのだろうか。

なんでこんなことを今更思い出したのかもわからないけど、今の私が同じ場所で同じことを言えたかはわからない。

そのことを考えさせるために、思い出させたのだろうか。

 

じわじわと寒さが身につき刺さるようになってきた。これからまたさらに寒さにさらされて生活していかなくてはならない。

私はお仕事に戻れるのかな。

ゆっくり考えるべきだったことは、もう私のことを急かすようになってきた。ずっとぴったりと、影のようについてくる。

逃げてきた人生だったと思う。

でも向き合わなければいけないことに、向き合ってこなかった私は、もう正面から受け止めることが怖くて手を伸ばすこともできない。

ひとりじゃないよと先生は言ってくれたけど、選びとるときはいつでもひとりだ。

ひとりで選びとることは、怖くてまだできないよ、先生。

だって責任とかいろんな石が私の上に乗っかって、全然動けなくなってしまいそうで怖いもの。

そんなことができるようになるなんて、想像もつかないよ。

 

夜にはあくびが出るようになった。

眠たいときに寝ておこう。

そうしたらまた、目を覚まそう。

きっとなにかできるようになったことを、ひとつひとつ探していこう。